熊本の山あいに新たな蒸留の灯──高橋酒造「田野蒸溜所」開所式に行ってきました。
TOPICS | 2025.10.21
秋晴れに恵まれた10月16日、熊本県人吉市・田野地区に高橋酒造の新たな挑戦「田野蒸溜所」が誕生しました。
旧田野小学校を再生したこの蒸溜所は、創業125年を迎えた老舗が初めて手がけるウイスキーづくりの拠点。
開所式には多くの関係者が出席し、地域の未来を照らすような温かな雰囲気に包まれました。
まだ残暑を感じる陽射しの下、山あいの町に静かに新たな蒸留の歴史が刻まれました。

福岡から車で約3時間。
山の風はひんやりと心地よいものの、日差しはまだ強く、秋と夏が交錯するような午後でした。
創業125年を迎えた高橋酒造が、新たに挑むウイスキーづくりの拠点「田野蒸溜所」。
標高680メートルの自然に囲まれた田野地区に位置し、
廃校となった旧田野小学校を再生した建物には、どこか懐かしい温もりが残っていました。
体育館を蒸留棟、教室を貯蔵庫や展示スペースに改修し、
赤い屋根や梁など象徴的な意匠をあえて残すことで、地域の“記憶”が息づく空間に仕上がっています



式典では高橋光宏社長の挨拶ののち、熊本県の木村敬知事、人吉市の松岡隼人市長、
地域関係者らによるテープカットが行われ、会場は晴れやかな拍手に包まれました。

「時間と向き合う覚悟」
ウイスキー事業の開発を担当する高橋良輔常務は、
「本格的に“ジャパニーズウイスキー”として名乗るには、3年以上の熟成期間が必要になります。
だからこそ、焦らずに時間と向き合いながら品質を磨いていきたい」と語っていました。

すぐに成果が見えない挑戦を続けられるのは、125年の歴史に裏づけられた信頼と覚悟があるからこそ。
焼酎づくりで培った蒸留技術が、新しい領域へと受け継がれていく息づかいを感じました。
「地域の記憶を蒸留する」場として
田野蒸溜所のテーマは「三つの記憶」。
建物が持つ物質的記憶、地域の学び舎としての郷愁的記憶、
そして田野地区や美晴山の自然を映す地域的記憶です。
熊本県の「くまもとアートポリスプロジェクト」の一環としても位置づけられ、
来春からは一般向けの蒸溜所見学も始まる予定。
観光と文化をつなぐ新しい拠点として、田野の地に新たな人の流れを生み出していきそうです
取材後記
廃校を蒸溜所へと再生するという発想には、土地への敬意と未来への希望が感じられます。
赤い屋根が秋空に映える校舎を後にしながら、「時間を蒸留する」という言葉の重みを静かに噛みしめました。
ここから熟成を重ね、3年後にウイスキーとして世に送り出されるその日を楽しみに――
人吉の山あいに吹く涼風のような、新しい物語の始まりを感じる取材でした。
高橋酒造 田野蒸溜所(たのじょうりゅうしょ)
所在地:熊本県人吉市田野町3316-4
詳しくは
高橋酒造「田野蒸溜所」公式ホームページまで