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ニューヨーカーも驚愕!八女茶、世界を目指す。

ニューヨーカーも驚愕!八女茶、世界を目指す。
初夏の青空に映えて、目にもまぶしい茶畑の新緑。やわらかな新芽が、摘まれるのを待っている。

京都や静岡など全国に有名な日本茶産地はあるが、上質な煎茶や玉露の分野では断然トップの座を誇るのが、福岡の「八女茶」。昔ながらの製法や、手間のかかる育て方を、頑固に守り続けてきた成果である。中でも選りすぐった「八女伝統本玉露」は、先日ニューヨークでお披露目され、名だたるシェフや料理批評家をもうならせた。八女茶の世界進出が、いよいよ始まろうとしている。
取材・文/富松由紀 撮影/重松美沙
写真提供:八女市建設経済部農業振興課、JA福岡中央会

全国生産のわずか2% それでも日本一を何度も獲得

3月のある日。博多駅近くのホテルで「八女茶」に関する記者会見が開かれていた。京都や静岡ら有名産地を抑えて「玉露部門」全国トップに輝く八女茶を、ニューヨークで披露しようというのである。市長自ら陣頭指揮を取り、マスコミ各社も大きく期待を寄せた。
今や、日本茶の代表として世界に打って出ようという八女茶。しかし、全国の日本茶年間生産高8万tの中で、八女はわずか約2%に過ぎない。それでも、毎年行われる「全国茶品評会」において、今や最高位の農林水産大臣賞を連続16年受賞するという、空前絶後の成果を上げるほどになった。他の産地では考えられない偉業である。
しかし、30年前にはこんな事態は想像もできなかった。

小さな産地が抱いた〝最高峰〟への野望

無名の産地が全国制覇まで、その陰の仕掛け人とは

八女茶がここまで発展した背景には、八女市農産園芸課の粘り強い指導やバックアップがあった。全国産地でもまれな、茶栽培指導員たちが昔から何人もいたのである。代表的なのが、椎窓孝雄さんだ。
30年ほど前、八女茶は地方の小産地で、全国的な認知度もブランド力も全くなかった。指導員たちは決断する。「どこにも負けない、高い品質で勝負していくしかない!」。
日本茶の種類は一般的な「煎茶」や「かぶせ茶」、そして上質の「玉露」などだが、高級品質路線ということで玉露に的を絞り、生産農家の意識改革に着手したのである。「日本一になろう!」と説く指導員の言葉を、180戸近い農家は最初せせら笑った。「そんなこつ、でくるもんか……」。
しかし、椎窓さんたちはめげなかった。土づくり、八女に合った品種選び、剪定や刈り取りの方法、そして何より収穫した茶葉を蒸熱や揉捻する加工方法……。ときには他の大産地に足を運び「何とか教えてください」と三顧の礼を尽くして、指導を仰いだ。そんな彼らの熱意が、次第に農家の心を動かしていく。

先祖伝来の手法を守り抜き、ついに到達した最高栄誉

玉露栽培は、日光を遮ることで葉の甘みや旨味を増やすのが特徴だが、遮光資材として昔は稲ワラを使っていた。それが最近では、簡便な化学繊維を使う地域がほとんどになっている。しかし八女だけは、あくまで本来の稲ワラにこだわった。その方が、適度な湿気と温度をキープできるのだ。化学繊維に比べて長持ちもしないし、入手も手間がかかるが、八女の執念は強かった。ワラを専用に編む機械は、もはや八女にしか存在しないという。
品種も、サエミドリという種類に絞った。爽やかな甘みは出るが、寒さに弱いという繊細な品種で、最初は4年に一度しか収穫できないという苦労もあった。けれど、農家たちはそれに耐えて乗り越えた。今では、他の玉露産地も次々にこのサエミドリに切り替えている。
この他にも、手摘みの慎重さや、昔ながらの加工手法(蒸しや揉捻)を守り抜いていき、ついに平成12年から連続16年間日本一獲得という、今までどの産地もなしえなかった栄冠を勝ち取ったのだ。
昔から伝承された栽培法という意味をこめ、「伝統本玉露」と呼ばれる珠玉の風味。平成27年には、国が産品と地域との関係性を保護する「GI認証」をお茶で唯一受け、一般人が一番美味しいお茶を投票で決める「日本茶アワード」でグランプリも獲得するなど、まさに玉露部門ではゆるぎない位置を占めている。

茶葉
摘んだ新芽を入れるのは、昔ながらの「てぼ」という竹かご。茶葉の中心をくぼませて、蒸れないように気をつけるとか。
椎窓孝雄さん
長年、八女茶の品質向上に尽力してきた、椎窓孝雄さん。
ソワニエ vol.43 2017年5・6月号より