「焼鳥屋さんなんですけど、焼鳥を食べたい時は〝今日は焼鳥が食べたい〟と先に言ってくださいね。でないとお通しだけでお腹いっぱいになっちゃうから」と常連のBUTCHさん。この日もカウンターに座ると、丸ごと一丁の湯豆腐や特大のサバのぬか炊きなど、一品料理と見紛うボリュームの品々が並んだ。そこへ大将・石母田一男さんが「こんなんが入ったんよ」と限定の焼酎を持ってくると、たちまち焼酎談義に花が咲く。
「すごい数の銘柄を置く店があると友人に連れられて来たのが最初。以来、小倉での仕事の後は必ず立ち寄ります」。廊下や階段までずらりと並ぶ焼酎は約1300銘柄。「お客さんが喜んでくれれば」と珍しい焼酎を求めて鹿児島・宮崎まで足を運ぶそう。「焼酎の品揃えやお通しが名物だけど、やっと辿り着いた焼鳥のネタの新鮮さとデカさ、安さも特筆もの。大将とお母さんのお客さんへの想いが伝わってくるのがいいんです」。
あるあるCityから放送していたFM福岡の番組など、昔から小倉でのレギュラー番組も多く、馴染みの店もいくつかありますが、『一坊』はずっと通い続けている店ですね。焼酎好き、競艇好きという共通点も多いし、とにかく人柄がいい。死ぬまでお付き合いしたいと思っています。
「ここに来ると〝あ〜帰ってきたな〟って思うんだよね」と、顔をほころばせる謎のアジア人さん。心からホッとできる故郷の店だ。「鳥ガラベースのダシで、関東風でも関西風でもない独特な〝小倉のおでん〟。ちょい飲みの時も、がっつり食べたい時も満足できるからつい足が向いちゃう」。その言葉に微笑んでうなずく大将の酒井俊也さん。「おでんは下準備が80%。素材一つひとつに合わせてダシを作り、丁寧に味付けしています」。
仕上げたネタは、カウンター前にある創業時からの湯せん鍋に入れる。しっかりと味がしみこんだ食べ応えのあるおでんに、まろやかな甘さのつゆは飲み干したくなるほど。「店を継いだ頃はいろいろ変えようとしてお客さんに叱られたこともありました(笑)。50年続く店の二代目として、この味を守っていくことが自分の仕事ですね」と酒井さん。それを聞いて今度は謎のアジア人さんが嬉しそうにうなずいていた。
高校まで過ごし、今も頻繁に訪れている北九州。いわば「庭」のようなもので行きつけの店も多いですが、小倉で飲む時は必ず大太鼓が選択肢に入ります。慣れ親しんだ味はやっぱり自分に合っているし、愛すべき店です。
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