博多の記憶
生粋の博多っ子が語るまちの風景。
育てられた地域への想いを、一貫に込める。
「小さい頃に学校から帰ってくると、店から穴子の焼ける匂いがしていて。今でも美味しい匂いには敏感なんですよね」そう懐かしそうに目を細める清水直哉さん。昭和34年から博多で商売を続けてきた鮨割烹の3代目。生まれも育ちも博多だからこそ、このまちへの思い入れは一際深い。
学生の頃の思い出の味といえば、英ちゃんうどんやお好み焼きもりちゃん、六甲。「とにかくお腹が空いていたから、丸天うどんやモダン焼きなんて最高に美味しかったですね」。中学生だった清水さんが衝撃を受け、深く記憶に刻まれているのが、珈琲のシャポーの珈琲とホットサンド。「まだリバレインができる前の話です。生クリームと珈琲の味を知った時の感動といったら! 今はもうありませんが、当時お店の横にエルクレハというピザ屋があって、そこもよく通っていました」。呉服町の太鼓焼きや古門戸町にあったエルボンのスタミナ焼き。時代の変遷とともに姿を消していった店もあれば、鈴懸や博多っ子ラーメン、信秀の焼き鳥、鶏卵素麺の松屋など今なお暖簾を掲げている店もあり、博多を代表する老舗だ。
両親が商売をしていたこともあり普段の夕食はゆっくり食卓を囲む、というわけにもいかなかったが、そんな中でも清水さんにとってのお袋の味がある。「フレンチトーストと、焼いた肉にジャポネソースをかけた料理は忘れられません。ジャポネソースはお店で提供している穴子のタタキのヒントになっていますね。お店の味。家庭の味。色んなシーンで出合った味が心と舌に残り、今の自分や店の味をつくっているのかもしれません」そう振り返る。
取材・文/三浦翠 撮影/恵良範章
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