小さなステンドグラスから漏れるあかり。
心に染み入る熱燗と家庭料理の数々。
カウンターに立つのは、純粋さと包容力を持ち温かな心地よさを醸し出す店主だ。
取材・文/三浦翠 撮影/勝村祐紀
揚げたてのコロッケ、作りたての野菜炒め。出来たての料理の香りや美味しさを、自分で作ることで学んだのは、畑麻由子さんが小学4年生の頃だ。「母は昔から料理上手でした。父が病気になってから仕事に出る時間が長くなって、下準備した食材を置いて『仕上げは自分でしなさい』というスタイルだったんですね」。地元である東京都荒川区の町屋に、母と小料理屋を開いたのは24歳の時。当時はイラストレーターとしても活動しており、二足のわらじを履く働き方だった。10年経って母が引退した時、「自分が店を守る」と決めて絵の仕事を辞め、結婚・出産を経ても産後2週間で復帰。家族のような常連客にも愛されていた店の転機になったのは、福岡で活躍していた兄からの移住の誘いだった。「最初は考えられないと思っていましたが、両親も移住を望んで…。老朽化で新しい店舗を探していたので、思い切って決めたんです」。
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