前ページで紹介した『千春』店主の中内豊さんは、長年≪関門海峡たこ≫漁に取り組む49歳の熟練漁師。
関門海峡で行われる蛸壺漁の取材の中で、郷土自慢のブランドに託す熱い想いを聞いた。
取材・文/葉山巧 撮影/坂口裕登
前ページで紹介した『千春』店主の中内豊さんは、長年≪関門海峡たこ≫漁に取り組む49歳の熟練漁師。
関門海峡で行われる蛸壺漁の取材の中で、郷土自慢のブランドに託す熱い想いを聞いた。
取材・文/葉山巧 撮影/坂口裕登
冬の予感をはらむ風が吹く10月の朝。漁船「豊栄」は強い潮のうねりに揉まれていた。関門橋を間近に望む、砂津港からわずか10分弱の沿岸部だというのに。「これでも今日は穏やかですよ」と中内豊さんが笑う。時折「大丈夫?」とこちらを気遣うのは、漁の相棒を務める奥様の裕子さんだ。
目印の浮きを発見し、その下に伸びるロープをウインチで巻き上げると、海中から次々と蛸壺が現れた。それを1つずつ取り外し、黙々と甲板に積み上げる中内さん。海水を含んだ蛸壺は見た目以上に重く、腱鞘炎になることも多い。
胃の腑に響く船のエンジン音、絶えず船体を叩く波、遠くで鳴る叙情的な汽笛。そんな臨場感がもたらす高揚は、ようやく9個目の蛸壺からタコが出た瞬間にピークを迎える。胸をなでおろす取材班をよそに、暴れまわるタコを網に入れ、すかさず船底の水槽に放り込む裕子さん。この連携プレーはその後3時間にわたり繰り返された。「蛸壺はカゴと違って出入りが自由。揚げるまで結果が分からないから、今も“ちゃんと入ってるかな”とドキドキです(笑)」
そんなタコたちは、どれも足が太く短く立派な体格だが、実はこれぞ過酷な関門海峡で育った証し。国内有数の速い潮流に流されまいと、必死に岩にしがみつくことで隆々とした筋肉が備わるという。≪関門海峡たこ≫の醍醐味である、比類なき食感の源だ。
続きは本誌で
最新試し読み記事