「美味しい料理」や「楽しい食卓」のシーンが印象的な、古今東西のシネマを紹介します。
文/葉山巧 イラスト/斉藤智美
実は寒いところが好きな僕にとって、南極は見果てぬ憧れの地です。ウイルスさえも存在できない氷の大陸。嗚呼そこはどれほど純粋で峻厳な美の世界であろう……。ま、しかし現実はそんな甘くない。いきなり約1年の南極勤務を命じられた海上保安庁隊員・西村(堺雅人)は、まさにその厳しい現実に放り込まれる本作の主人公です。
平均気温マイナス54℃の「ドームふじ基地」に着任した彼を、雪氷学者の本山(生瀬勝久)や気象学者の金田(きたろう)ら7人の観測隊員が出迎えます。が、過酷な環境のせいで全員がメンタル崩壊5秒前。やがて疑心暗鬼になった彼らは武器を手に取り基地は惨劇の舞台に……というのはSFホラーの金字塔『遊星からの物体X』(1982年)ですが、これはどんな揉め事もオフビートな笑いに着地するコメディなので安全安心。我々は涼しい部屋でコーヒーでも飲みながら、究極の非日常で起きるドタバタスケッチを楽しみましょう。
さて隊員たちが極限状態になるたび、彼らを正気に引き戻すのが、そう、料理担当者たる西村氏お手製のあったかごはん。世界屈指の“食に執着する民族”の習性ゆえか、心を弱くするのも強くするのも食事次第──そんなアイデンティティ描写が実にニッポンらしい映画でした。南極でも本格フレンチを食べるんだな、とか、かんすい抜きのラーメンはこう作るのか、とか、折々に挟まれるシーンも興味津々。
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