温泉天国九州は、豊かな漁場に囲まれた魚天国でもある。潮風を受けながら海を眺められる温泉に浸り、漁村や港に水揚げされた新鮮な海の幸に舌鼓を打つ。これを「極楽」と言わずに入られようか? 取材・文/江月義憲 撮影/森寛一
江戸時代、海外との貿易拠点として栄えた長崎港の入口に浮かぶ伊王島は、日本初の洋式灯台が建てられるなど、海上交通の要衝だった。かつては長崎港大波止から旅客船のみで結ばれていたが、2011年に伊王島大橋が開通して、アクセスが格段に良くなった。ホテルやコテージなどを擁するリゾート施設「やすらぎ 伊王島」に併設する『島風の湯』は、地下1180mから湧き出す自家源泉の天然温泉。男女ともに幅18mの展望露天風呂からは長崎の海を一望でき、開放感はバツグン。湯上がりに地元の魚料理が食べられる「網元食堂」もある。
全国第2位という海岸線の長さを誇る長崎県。五島灘や対馬沖、内海の有明海で獲れる魚の種類は日本一といわれ、まさに海の幸の宝庫である。そんな長崎の地魚を存分に堪能できるのが、思案橋近くにある『松ふじ』だ。
ネタケースには白身、赤身、青魚に甲殻類や貝類がズラリと並び、「サーモン以外はすべて長崎産」という。さらにスエヒロやサエズリ、ベーコンなど希少な鯨の切り身も揃い、南蛮漬けやブリ大根、ブリの真子など大皿料理の種類も豊富で、何を注文するか真剣に悩むほど。こんな魚が日常的に食べらる長崎市民が、心底羨ましい。
ガザミ(ワタリガニ)は全国に生息しているが、佐賀県太良町の有明海沿岸で獲れるものは「竹崎カニ」と呼ばれ、特に味がいいことで珍重されている。晩秋から初冬にかけて卵を甲羅の中に抱えたメスは格段に美味となり、春先まで続く。地元のカニ漁師が獲った竹崎カニを直接仕入れている『豊洋荘』の料理は、もちろんカニの姿煮がメイン。塩茹でというシンプルな調理法ながら、太良山系の地下水に天然塩を使って真っ赤に茹で上げられたカニは、有明海の恵みが凝縮された旨味が詰まっている。
竹崎カニを満喫した後は、露天風呂「十方空」でひとっ風呂。正面に有明海を望み、右手は雲仙、左手は佐賀まで見渡せる眺望に、身も心も満足できる割烹温泉旅館だ。
佐賀県の最南端に位置する太良町は、穏やかな有明海に面した風光明媚な土地柄。潮の干満差が日本一の最大6mもあることから、「月の引力が見える町」というキャッチフレーズがつけられている。この海沿いに湧く温泉の中でも、特に豊富な種類の風呂を擁するのが旅館「蟹御殿」の日帰り温泉施設『有明海の湯』。露天風呂や大浴場の他、貸切露天風呂が6棟、貸切半露天も2棟あるなど、様々なタイプの温泉が用意されている。
日出町は大分県内でも屈指の名水の郷として知られ、町内各所に50カ所以上もの湧き水スポットが点在する。その名水が温泉として湧き出ているのが日出温泉。複合リゾート施設『スパ&リゾート ホテルソラージュ大分・日出』では、別府湾を一望できる露天風呂をはじめとする温泉が日帰り利用できる。
和洋2つの露天風呂は男女日替わりで、その他に打たせ湯やサウナ、ジェットバスなど種類も豊富。美肌やアトピーにも効果があるといわれる「バラ湯」(土曜日/女湯限定)は、心の底からリラックスすることができる女性だけのスペシャリティだ。
別府湾に面した国東半島のつけ根にある城下町・日出町。江戸時代には将軍に献上されたという「城下カレイ」で知られているが、カレイに勝るとも劣らない名物が、豊後水道で獲れるハモである。ハモといえば夏が旬だと思われがちだが、冬を前にしてたっぷりと脂が乗った「名残りハモ」は、秋に2回目の旬を迎える。
別府湾に面した日出城三の丸跡にあり、大分を代表する料亭の一つである『的山荘』でも、ハモは秋の懐石料理の献立に欠かせない食材の一つ。国の重要文化財にも指定されている大正初期に建てられた和風建築の一室で、秋ならではの味覚を堪能したい。
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