第三十九回
深閑たる山々と、太陽の光を浴びてきらめく海。
至る所に点在する神社仏閣や史跡。自然美に囲まれ、
神聖な空気が漂う国東半島の魅力を味わい尽くす。
取材・文/三浦翠 撮影/杉本圭、竹内康訓、竹内さくら、紅葉谷昌代
九州東岸、周防灘に向かってぽっこりと突き出した国東半島。大分県の北東に位置する円形の半島は、太古の火山活動によって生まれた地域だ。中心にそびえる両子山から放射状にのびる尾根と谷には、かつて六つの郷(六郷)があったという。そこに開かれた天台宗寺院を満山と呼び、奈良から平安時代にかけて「六郷満山文化」といわれる独自の仏教文化が花開いていった。霊験あらたかな地には神社仏閣が多く残り、田園をはじめとする農村景観からは、心を洗われるような自然の息遣いを感じられる。
歴史ロマンに満ちた厳かな地を巡るなら、自然を五感で味わう旅をおすすめしたい。豊後高田の名産である蕎麦、周防灘や伊予灘の美味、滋養たっぷりの山の幸。また静かな地に惹かれ移り住む職人も多く、その手から生まれる手土産探しに興じるひとときもいい。
豊後高田で採れた蕎麦を愉しませてくれる、店主の心意気。
旅情たっぷりの2軒に足を運んで。
ガラス張りの目の前に真玉海岸を見晴らす海カフェ。外二で打つ蕎麦は香りがあって喉越しよく、海岸で捕れたマテ貝や豊後高田市産のピーナッツなど、特産品と組み合わせた多彩なメニューを味わえる。海辺のまちで育った店主の柗嵜敏行さんは、真玉漁協の組合員で市場の仲買人と、海のイロハに精通した料理人。海岸でマテ貝を捕ることもあれば市場で買い付けをすることもあり、用いる魚介はほぼ天然もの。野菜などもできるだけ近場のもので、地域にも環境にも優しい店づくりに臨む。
ほっこり心温まる、思い出のうつわたち。
陶芸工房「くにさきかたち工房」の隣にオープンしたギャラリー兼喫茶。12年前に千葉県から移住した垣野勝司さんが「風土に根付いたうつわを」という思いでスタッフと共に作陶する。定番の「きなりのうつわ」は、刷毛で何回も白い土を塗り重ねた独自の風合いと温かみ。またすぐ近くの土を使って岩肌の荒々しい質感で魅せる「原土シリーズ」も風土色たっぷり。喫茶スペースでは珈琲やその日のおやつがいただけ、海のすぐ近くとあって時折潮風が吹き抜ける心地よい場所だ。