第三十四回
かつて唯一の国際貿易港があった長崎は、その名残が今なお色濃く残る、歴史と文化の街。和華蘭文化から生まれた伝統料理や建築物に触れながら先人たちに思いを馳せる時間も、長崎ならではの楽しみだ。
取材・文/淺原麻希 撮影/武井メグミ、川﨑一徳
西九州新幹線の開業からおよそ1年半。最速1時間20分で博多駅~長崎駅間を移動できるようになったことで、宿泊をせずに日帰りで長崎へ足を運ぶ人も増えたのではないだろうか。特に、長崎駅周辺の市街地は、眼鏡橋や出島、長崎新地中華街といった観光名所が点在しており、日帰り旅でも十分満喫できるエリア。移動は街中を走る路面電車を使うと便利で、1日乗り放題の乗車券(中学生以上600円)もあるから覚えておきたい。
今回、訪れた場所はすべて、路面電車で巡れる範囲でピックアップ。異国情緒豊かな町並みが広がる南山手エリアを散策したり、坂本龍馬や勝海舟ら名だたる偉人も訪れたという史跡料亭で伝統料理を味わうなど、楽しみは盛りだくさん。路面電車の時間を見ながらスケジュールを組み、長崎の旅を大いに堪能したい。
伝統的な卓袱料理や地魚を活かした和食も、長崎ならではのご馳走
江戸時代初期の長崎・丸山は、日本三大花街のひとつとして謳われ栄えた場所。中でも、『花月』の前身である「引田屋」は、丸山随一の規模を誇る遊女屋であり、1642年の創業以来、坂本龍馬や勝海舟など多くの偉人が足を運んだことでも知られる。1960年には長崎県の史跡に指定され、全国でも珍しい“史跡料亭”となった。
そんな歴史的空間で味わえるのは、卓袱料理という長崎伝統のコース料理。朱塗りの円卓に、和食・中華・洋食が入り混じった国際色豊かな大皿料理が並び、それを直箸で各自いただくのが卓袱料理のスタイルだ。窓の向こうに見える800坪の日本庭園も見事で、ここでしか体験できない時間を美しく彩ってくれる。
旅の思い出をあの人におすそ分け
オーナーの母親である本田邦子さんが考案した、ケーキを缶ごと焼き上げ、2ヶ月ほど熟成させる「熟成缶ケーキ」が名物。缶のまま熟成させることで旨味が凝縮し、開けた瞬間に芳醇な香りも堪能できる。また、イートインメニューの「長崎スフレ」は、JR九州のD&S列車「ふたつ星4047」でも提供する人気のスイーツ。フワトロ食感がたまらない一品だ。