第三十三回
言わずと知れた九州を代表する観光地・由布院は、車がなくとも充実した旅が叶う、コンパクトな街。
今だけの美しい景色を楽しみながら、食べ歩きや温泉巡りに興じてみてはいかが。
取材・文/淺原麻希 撮影/目野つぐみ、鍋田広一
今回は、日本人だけでなく、海外の観光客をも魅了する温泉地・由布院へ。どこを切り取っても絵になる美しい自然にはじまり、全国屈指の湧出量と源泉数を誇る温泉、豊かな風土から生まれた食材を生かす食事処など、何度も足を運びたくなる魅力で溢れている。
福岡からは車だけでなく、JR九州の観光列車を利用して訪れる人も多いことから、今回は由布院駅を旅の起点に設定。徒歩移動が可能な範囲だけでも、美味しい旅が十分叶うコンパクトさも由布院の良さだ。気になる小道があれば、ふらりと寄り道してもいい。雪化粧をまとった由布岳や、幻想的な朝霧、もうもうと立ち上る湯けむりなど、今しか出合えない情景が、旅をより思い出深いものにしてくれるだろう。最後は温泉で冷えた身体を温めて、冬の由布院旅を締めくくりたい。
お腹だけでなく、心も満たしてくれる2軒をピックアップ
オーナーの山﨑康成さんが目指したのは、由布院の自然を身近に感じられる場所。のどかな景色を眺めながら、鳥のさえずりや心地よい風を楽しめる場所で寛いでほしいと、由布院盆地を一望できる高台に店を構えた。
オープンから今年で20年。今や行列必至の人気店となった『櫟の丘』は、日々の喧騒から離れて過ごしたいという都心部からの客が多い。遠方からわざわざ足を運ぶのは空間だけでなく、地元野菜や自家製ベーコンなどをのせた石窯ピッツァ、もっちり食感の生パスタ、ワインやハーブに一晩漬け込んだスペアリブなど、手の込んだイタリアンが食べられるのも大きな理由だ。美味しい料理と、非日常へ誘う自然豊かなロケーション。その両方が一度に堪能できる、由布院のなかでも貴重なスポットといえるだろう。
旅館「山荘わらび野」が手がける話題のニュースポットは、地元の人たちも集う、日常に寄り添った空間だ
由布院の中心地から少し車を走らせると、長閑な風景が広がる川北エリアにたどり着く。そこで静かに佇むのが、昨年4月にオープンした『ある風景』だ。元々は、旅館「山荘わらび野」のオーナー・髙田淳平さんが幼い頃に住んでいた場所で、長い間、倉庫として使われていたが、コロナ禍に入ったタイミングで改装に着手。髙田さんを中心に、旅館のスタッフらも加わり、少しずつ手を加えながら現在のギャラリー&カフェを完成させた。1階のカフェスペースは、窓の向こうの穏やかな景色を見ながら寛げる、癒やしの空間。2階はギャラリースペースとなっており、洋服や器などの展示・販売を行っている。気さくなスタッフとの距離感も心地よく、ゆるりと幸せな時間に心が満たされていくようだ。